第12話 いざ出陣!

  ライン


「このまま直進し、左手に教会が見えたら次の道路で右折して下さい」 ダイアンがパソコンを操りながらミシェルに指示を出す。 「OK。――右折したわよ」 「この道のつきあたりが目的地です」 ダイアンがそう言ってまもなく、目的地に到着した。所要時間はなんと三十分。 アリスが言っていた所要時間の、実に半分の時間で着いてしまった。  念のために言っておくが、これはアリスが間違っていたわけではない。 オレ達の車の運転手が、スピードを出しすぎているのだ。 車に乗っている間、ダイアンはパソコン画面に集中していたので全く恐怖を感じなかった らしいが、他の三名は死にそうだった。 助手席に乗ったロイは誰か御主人様の暴走をとめろ〜!!≠ニ始終叫んでいたし、我が                  パートナーのジュリーは車酔いして泡をふいていた。 今はとりあえず無事にたどりついた                  ことを感謝しよう。                   「さぁ、お屋敷の中に入りましょう」 ダイアンはパソコン画面からは目を離さず、颯爽と門まで歩いていく。パソコン片手に歩く姿 はまるで、早朝の出勤時のOLみたいだ。彼女はどうやら緊張感とは無縁らしい。しゃべり方 だって機械的だし、感情の起伏もほとんどない。どこかしら、ロボットを彷彿させる。 …オレが知らないだけで、NASAの最先端技術では既に人間型ロボットとかできてるんじゃ ないだろうか?   だが今はそんなことどうでもいい。 カルロスを捕らえるのが先だ。 オレ達は古い錆びた門をくぐると敷地内へ足を踏み入れた。石のしきつめられた細い道を 一列になって歩く。 道以外の場所は草がぼうぼうに生えていてまわりが全く見えない。 「人が住んでいる家とはとても思えませんね。 データによればここは空き家となっています」 『しかし人が住んでいるのは間違いない。 この道を十人近くの人間が最近通った痕跡がある』 さすがは麻薬捜査犬だ。 人間やコンピュータではすぐに判定のつかないことも即座に感じとる。  少々理屈っぽいが頼りになる男だ。 『今、屋敷の中に人間がひとりいるわ。 男だから多分D・カルロスだと思うけど。  背はランディーよりちょっと低めぐらい。 180前後ってところね』 「…はぁ?」 ジュリーは一体何を根拠にそんな事を言っているのか。 オレはロイをふり返ってみた。 『私にはそこまで感じとる能力はない』 ロイは少し悔しそうに言った。フランス一の麻薬捜査犬がこんな事を言うとは、一体                    ジュリーはどんな嗅覚をしてるんだろう?                    「何でそんな事が分かるのか説明してくれよ」                    『説明って言われても……人のニオイが一人しかしないからこの家には一人だけしか人間が いないのよっ。分かった?』 正直言ってこんなのが学校の先生だったらたまらない。 でも、まぁジュリーの言いたい事 は理解できているから頷いておこう。 できていないのはその次のことだ。                   「なんでニオイだけでカルロスの身長まで分かるんだ?」                   『そんなの簡単よ。 カルロスのニオイが分かれば、この道についている足跡のどれがカルロス のものか分かるでしょ。 その靴のサイズから身長を予測してカルロスが通った時に接触した 草のニオイを調べると、正確な身長が割り出せる訳よ』 「ほ〜、そりゃすごいな」 オレは純粋に驚いた。 ジュリーが麻薬捜査犬以上の嗅覚を持っているのは以前から知って いたが、こんなにすごいとは思いもしなかった。 ここまでくると異常を越えて神秘的なもの に近づいていっている気がする。 ジュリーならきっと第二のユリ=ゲラーにだってなれる だろう。




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