第13話 秘密の地下室 

  ライン


「ドアをノックした方がいいですか?」 先頭を歩いていたダイアンが玄関の前で止まった。 「一応ね。仲間だと思って出て来てくれると助かるんだけど」 ミシェルの口調はいつもと変わらないが、なぜかオレとは口をきいてくれない。 やっぱり怒っているのだろう。 コンコン、コンコン…… ダイアンが規則的なノックをくり返すが、カルロスはなかなか出てこない。 『警戒してるようだな』 ロイがオレに向かって言った。犬語というのは実に便利で、声を出さなくても会話ができる。 ブタ語は少しブヒッ≠ニいう音が出てしまうのが難点だが、ジュリーは犬語をマスターして いるので、ここは三人仲良く犬語で語り合うことにした。 『近づいてくる気配が一向に見られない』 『それならさっさと中へ入った方がいいんじゃない? ランディー、他の二人にもそう言ってよ。 ――あぁ……何でミシェルとダイアンは犬語が話せないのかしら?』 『それはおまえが人語を話せないのと同じだろ』 『ちがうわよ。だって人語を話せる動物はインコとかオウム以外いないじゃない。だから私が 話せなくて当然!! だいたいノドのつくりからして発音はムリなのよ。 でも、ランディーが犬語 もブタ語も話せるってことは、人間は努力すればちゃんと話せるようになるってことなのよ』 彼女は自信タップリだが、それはちょっと違うんじゃないかと思う。 オレは別に涙ぐましい努力 をして話せるようになった訳じゃないし、自分ができるから他人ができるとは思わない。 これは決して自惚れなんかじゃなく、自分が人間離れしているという意味だ。                     その点ではジュリーとオレとは共通の接点がある。ブタ離れしている彼女と人間離れしている オレ……なかなかいいコンビだと、自分では思っているのだけど…。     『ランディー、考えごとなんてしてないで、早く二人に言ってよ。 こういう時はタイミングが大事 なんだから。アタシにケンカ売ってるわけ?』 『いや』 短く答えて、ミシェルとダイアンに話を伝える。 ケンカを受けるのもいいかと思ったが、ブタと fightする自分を想像して情けなくなったのでやめた。 『おい、バカな事ばかり考えないで、これから先の事に集中しろ。 貴様には緊張感が全くない』 今までずっと口を閉ざしていたロイが突然オレに向かってそう言った。 彼は本気で腹を立てているようだった。 眉間にしわをよせて、のどの奥でうなっている。かろう じて口は閉じられているが、少しでも開けば鋭い牙が見えるはずだ。 彼が怒るのも無理はない。確かに、オレには緊張感というものが欠けていた。多分、こういう場面 に遭遇したことがないからだろう。正直なところ、まだ実感が湧いていない。 『ごめん。 ロイの言う通りだ。オレが悪かったよ。――でも……カルロスのことを考えてなかった 訳じゃない』 『言い訳か?』 ロイは淡々とした口調で言った。まだ信用されていないらしい。確かにオレの頭の中に緊張感という 3文字は抜けていたが、同級生の眼差しまで忘れたわけではない。 『いや。本当のことだ。――オレは奴を絶対に許さない』 オレは先頭をきって屋敷の中へと入って行った。   捜査開始から5分で、地下室の場所を発見した。カルロスのニオイを辿ることくらい、ロイとジュリー には朝メシ前だ。 「この下が地下室ね。 でもこの床どうやって開けるのかしら?」 「おそらく自動式になってるんだと思います」 ダイアンは周りの床を叩いて慎重に何かを調べている。 「ここの床は金属で、厚さは10〜12センチくらいかと思います」 「それじゃあ壊しようがないな……」 力にはそこそこ自信があるがこれはちょっと厳しい。                  「ここは私にまかせて下さい。この床はコンピューターで制御されてますから、電波を飛ばして 遠隔操作で開けられると思います」 ダイアンは自分のコンピュータのアンテナをのばすと、瞬時に何か打ちこんだ。 もちろん、 音はしない。 入力終了と同時に、足元の床が動きはじめた。 それはゆっくりと開いていき、遂に地下の階段が 姿を現した。 『これから先は私の出番よ! ついてきて!』 ジュリーがまっさきに穴に飛びこみ、オレたちもそれに続いた。




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