第14話 追跡の果てに…

  ライン


階段を下りきったところで、急にライトがついた。 「うわっ」 光の変化に目がついていかずに、一瞬景色が見えなくなる。再び瞳を開けた時には、目の前に銃を構えた 男が立っていた。 「どなたかな? こんな所にまで入ってくるのは。ただの迷い人という訳でもあるまい」 男は顔に微笑みを浮かべながらそう言った。この男がD・カルロスに間違いないのだが、オレはその 風貌に面くらった。奴はどこかの貴族の紳士、とでも言うのがピッタリな男だった。 ――甘いマスクにうすい茶色の髪、短く整えられた髭、黒のスーツとネクタイでバッチリ決めている。  とてもじゃないが、外見だけではこの男の正体は分からないだろう。 「さて、真ん中にいる女性とそっちの青年には、持ってる銃をこちらにかしてもらおうか」 オレはその言葉にドキッとした。カルロスは見ただけでオレとミシェルが銃を隠し持っていることに 気づいたのだ。 オレ達は仕方なしにカルロスに銃を渡した。 「おっと、そいつも邪魔だな」 そう言ってカルロスはダイアンのコンピュータを撃ち壊した。 「これで外部と連絡はとれないし、地下室からも勝手に出れなくなった訳だ。……さぁ、君たちが 何しにここへ来たのか聞こうじゃないか」 カルロスは方眉を上げ、余裕たっぷりの表情を浮かべた。 オレ達から全部武器をとり上げて、 もう勝利を手にしたとでも確信しているのだろう。 「あなたがD・カルロスね」 「そうだが。何か私に聞きたいことでもあるのかな?」 そう言ってカルロスはミシェルに銃口を向けた。 「……」 ミシェルはじっと相手の出方を伺っている。 「あるさ」 オレは静かに言った。果たしてこれが時間稼ぎになるのかオレにはよくわからないが、じっと黙って いても進展しないだろう。 「あんたの後ろにたくさんある、冷蔵庫の中身が知りたい」 「ほう……そんな事まで知っているとはね。 ますます生きて帰せなくなりそうだ。――まぁ、そんなに 冷蔵庫の中を見たいなら、君が自分で見てみるといい。君がその中身を知ったところで何も変わらない」 カルロスは片方の手で髭を撫でながら、銃口を天井に向けた。 「なぜだか分かるかい?」 カルロスはわざとそんな事をきく。 「どうせオレは殺されるから、とでも言えばいいのか」  カルロスはオレの答えに、それなりに満足したらしい。銃口はまだ上を向いている。 「一応正解だ。 私の気が変わらないうちに中身を調べてきたらどうだ?」 オレはみんなの顔をぐるっと見回した。誰も反対する者はいなかった。 「そうするよ」 オレはそう言ったあとにジュリーと目を合わせてから、カルロスの方へ歩いて行った。 カルロスはオレの今の行動が気になっているらしく、ジュリーばかりを見ている。オレは一番手前の 冷蔵庫の前で立ち止まり、ふり返ってまたジュリーを見た。 「いいか。何かしようなんて考えないことだ。少しでもそのブタが動いたら撃つぞ」 カルロスはオレとジュリーを交互に見ながら、オレ達が妙な動きをしないかどうか監視しはじめた。 もうオレ達以外は目に入っていないらしい。奴はまんまと罠に引っかかってくれたらしい。 ――オレとジュリーが目を合わせていたのは、カルロスの注意を引くためだ。部屋の中心にいる カルロスがジュリーとオレに注目すると、ロイが死角に入って見えなくなる。つまり、ジュリーとオレ に気をとられているうちに、ロイがこっそり忍びよってガブリ≠ニいう訳だ。  ロイはエリート警察犬だから、悪い犯人にとびかかる、なんてのはさんざん訓練でやっている。  ちなみにロイとはどうやって話をしたかと言うと、オレがみんなの顔を見回した時にアイコンタクトで バッチリ伝えておいた。 しかしまぁ、こんなに上手く行くとは自分でも予想外だ。 最後まで上手くいくという保障は無いが、希望は見えてきた。 ロイがホフク前進忍び足≠ナカルロスの後ろに回ったのが見える。 ダイアンとミシェルもとっくに気づいてチャンスをうかがっていることだろう。 オレは仲間を信じて冷蔵庫の取っ手に手をかけた。その瞬間―― 「ギャッ」 カエルみたいなカルロスの悲鳴が地下室に響いた。オレは即座にロケットダッシュを発動し、右手に ロイをぶら下げて悶え苦しんでいるカルロスに、強烈な右ストレートをおみまいした。 「グェッ」 よりカエルに近づいた声を上げて、カルロスの体が放物線を描いてとんでゆく。 そして着地で脳震盪 を起こしたところに、ミシェルが奪い返した銃を頭につきつけ、ダイアンが手錠をはめた。 全ては一瞬の出来事だった。ジュリーは死の恐怖からやっと解放され、勝利の雄叫びをあげる。 『やったわ! なんて私達ってスゴイのかしら! どんな映画よりもスリリングでエキサイティングで ビューティフルだと思うわ!』   ジュリー、知ってる英単語を並べればいいってわけじゃないんだよ………  こうしてオレたちは無事、D・カルロスの逮捕に成功した。




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