第15話 ホッと一息

  ライン


                  『あぁ〜、やっぱり田舎に戻ると落ちつくわ〜』 今日一日の仕事を終えて、二人でてくてく家路に向かう。 「なんか一週間前の事がウソみたいだよなぁ」 オレはあれから国民栄誉賞なんてたいそうなものをもらってしまい、なんだか不思議な気分だ。 もちろんジュリーももらったのだが、彼女の場合、国民ではないから国豚栄誉賞とでも言うべきか。 『疲れた心と体を癒すのは、やっぱり上質なトリュフの匂いよねぇ…』 ジュリーは今日採れた最高級のトリュフに頬ずりをして、ウットリしている。 オレは別にトリュフの匂いに癒されはしないのだが、田舎の空気はどこか安心感があって好きだ。 『さぁ〜、家に帰ったら晩御飯を食べて、後はソファで寝そべってワインが飲みたいわ』 ジュリーが短い巻き尾をプリプリ振りながら、オレに提案してきた。 「あれ? おまえ、ワイン飲めないんじゃなかったっけ?」 『そうよ。残念ながら飲めないわよ。だから"飲みたい"って願望を言ってるだけよ』 ジュリーが頬を膨らます。 「別に飲めなくたっていいんじゃないか? おまえの好きな"産地直送ブドウジュース"、あれ、すごく 美味いぞ」 『アンタ、わかってないわねぇ…。ワインって響きがいいのよ』 「そーかね? じゃ、昨日買っておいたブドウジュース、オレもらっていい?」 『…え゛』 ジュリーが立ち止まった。 『…真剣に考えると、やっぱりジュースの方が良い気がしてきたわ。だって、お肌に良いっていう ポリフェノールは、ワインにもジュースにもどっちにも入ってる訳だし。そもそもワインはブドウ ジュースの親戚みたいなモンだし…』 モゴモゴと歯切れの悪い口調で何やらブツブツ言っている。格好はつけたいが、やっぱりワインは 口に合わないらしい。 「わかったわかった。ジュースはジュリーにあげるよ」 オレはパートナーの頭をポンポンと叩いた。 『次の捜査の時は、大活躍して、打ち上げでワインをガバガバ飲んでやるんだからっ!』 ジュリーは何に燃えているのかよくわからないが、鼻息を荒くして高らかに叫ぶと、夕日に向かって 走っていってしまった。 残されたオレは、思わずポツリと呟いた。 「どうして青春ドラマみたいなエンディングなんだ?」 ――あるときは麻薬捜査員と麻薬捜査豚      あるときは凡人と豚国宝      あるときは国民栄誉賞受賞者と国豚栄誉賞受賞豚…そんな      さすらいのトリュフハンターをあなたの胸に刻み込んでおいてほしい。                                    第1巻   ― 完 ―




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