第3話 プロの技

  ライン


彼女……つまりジュリーのことだが、彼女はトリュフハンター用のブタではない。トリュフ ハンターに使うブタは、鼻が利く、野ブタに近いものが使われるのだが、どう考えてもジュ リーは野ブタには見えない。それもそのはず、彼女はペット用の超・超・超……高級な ブタちゃん≠ネのだ。なんでも、愛玩用のブタの繁殖に関しては右に出るものがいないと 言われるガーネット社℃ゥ慢のブタで、姿・形がかわいらしく、無臭で、キレイ好き! ときている。彼女はオレよりもフロに長くはいり、寝る前には歯も磨く。 仕事場でもトリュ フを採る際に汚れた手足をウエットティッシュでふく。なんてブタだっ!!≠ニ最初思ったが、 今はむしろ良かったと思う。ジュリーじゃなかったら、オレは今頃イノシシのような野ブタと 共存しなければならない。  どんな生活になるのか考えたくもないが……。 アレコレ考えているうちに、いい時間になったらしい。 「ジュリー。そろそろ行こうか」 オレ達は立ち上がって広場の中へと入った。  どこからともなく拍手が沸き起こる。一応、 これでもチャンプの座を五回連続保持しているプロだ。 今回も負ける訳にはいかない。 「それでは、みなさん準備はいいですか〜。 ヨーイ、スタート!!」 開始の声と同時に、皆一斉に走り出す。  正に猪突猛進と言った光景だ。その中でもオレ とジュリーのペアは先頭をきって走る。 しかしそう気分はよくない。 背中からすさまじい 地響きとブタの太い声が聞こえてくるからだ。 『あ〜あ、毎回毎回こんなのって疲れるわ』 「なら、走らずにゆっくり歩けばいいだろ」 『そんなことしたら……』 ジュリーはすばやく立ち止まった。 『せっかくの良質のトリュフが……』 ジュリーは鼻と手足でトリュフをポコポコ掘り出した。 『アホなブタに踏んづけられちゃうわっ!!』 そう言い終えると彼女はすぐ別のターゲットへと駆け出す。 オレは運動会の玉投げの要領 でポンポンとトリュフを背中のかごへ放り込むと彼女の後を追う。 たどりついた時には すでに新しいトリュフが掘り出されている。 彼女の仕事ぶりは迅速かつ正確だ。   これは彼女の鼻が非常にというか、どちらかと言えば異常に良いことが関係している。  彼女はもともとペット用のブタだから鼻はそう利かないはずだが、品種改良のせいで突然変異 を起こしたらしい。だから彼女はただ走っているだけでも、ちゃんとトリュフの場所がつかめる のだ。 しかも彼女は一級クラスのトリュフしか掘り出さない。 オレはただただ、拾っては走り、 追いついて拾ってはまた走り……を繰り返しているだけだ。 そうしているとすぐにかごが一杯 になってしまう。 「さて、オレ達は早々に戻るとするか」 『そうね。きっと今までの最短記録だわ』 「――でも、この競技はもともとタイムトライアルなんかじゃないんだよなぁ。オレ達がこんなに 早いと他のプレーヤーがあせるんじゃないか?」 『余計に私達が勝ちやすくなるってことよ』 「そのとおりっ!! 当分チャンピオンの座は譲れないな」 オレ達は余裕の表情で地下室を出た。 唖然としている他の人々・豚々を残して。




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