第4話 出動要請

  ライン


「優勝おめでとうございます」 肩を叩かれてオレはふり向いた。 「どうもありがとう。――!? ミシェルじゃないかっ!! どうしてこんな所にいるんだ?」 声をかけた女性の方は全く知らなかったが、もう一人の方は知り合いだった。 「仕事の事で緊急な話があるの。今すぐ時間をとってもらえない?」 仕事と聞いてオレはピーンときた。これはきっと警察からの招待にちがいない。                   「オレ達に捜査を手伝わせようっていうんだろ?」                   「まぁ、そうね。でも手伝わせるんじゃなくて、手伝って下さい、というフランス警察から                    のお頼みよ。とりあえず話ができる場所へ行きましょう」                    オレは仕方なく頷いた。 国からの頼みとあってはしょうがない。 「彼女は麻薬捜査班のメンバーで、コンピューターの情報管理をしているの」 「ダイアン=ウォルスタインです。あなたと一度お会いしたいと思っていました」 ホルスタイン!? とオレは心の中で叫んだ。あの乳牛のホルスタイン? そうか、だから グラマーな訳だと俺は納得した。 名は体を表す≠セ。そんなアホな事をオレが考えて いたのを見透かすようにミシェルが冷たく言った。 「ウォルスタインよ。 聞き間違えたりしてないわよね」 「も……もちろん。――で、話は何なんだよ」 オレはジュリーを抱き上げてひざに乗せた。 これはオレたち二人の問題だ。 しかも どちらかと言えばジュリーの答えで決まるのだ。 「私、普段は空港で人のチェックをしてるんだけど、最近、麻薬保持者の数が著しく増加して るのよ」 「それはオレもニュースで聞いて知ってるよ」 「色々調べた結果、どうやら国内に麻薬を大量にもってる所があるみたいなの。 私とロイは そのアジトを見つけるよう言われているわ」 ロイと言うのはミシェルのパートナーのシェパード犬だ。 優秀な麻薬捜査犬で、日々活躍 している。 「――で、オレ達に助っ人を頼みにきた訳?」 「そう。ロイより鼻がいいのはジュリーしかいないんだから」 なぜこんな事がわかるのか、と言うと、以前実際に比べてみたことがあったからだ。 たしかフランス民営放送局で、その名も対決!! フランス一の麻薬捜査犬VSフランス一 のトリュフハンター豚 どちらの鼻が勝つか?≠セった。企画者をはじめ、その番組の審査員、 テレビの前の国民の九十%、実を言えばオレさえもが、麻薬捜査犬が勝つと思っていた。  ところがどっこい、我がパートナーはいとも簡単にその勝負に勝ってしまったのだ。  この信じ難いセンセーショナルなニュースは世界中に広まり、あのアメリカのニューヨーク タイムズにでかでかと載ったのを見た時は、思わず自分の顔をつねってしまった。  あいにく、載っているのはジュリーだけで、オレが写っていなかったのだけは残念だが……。   しかし、地元の新聞では号外ででっかくオレとジュリーが載った。 見出しはトリュフ界のプリンス、 ランディー=ロッドマンと白い妖精ジュリーが麻薬捜査犬を圧勝!! オレはともかく白い妖精≠ナはジュリーが豚だとは分からないと思うのだが。 ――とにかくオレ達は過去、警察に勝ったことがあったのだ。 「ジュリー、オレはこの仕事に乗ってもいいけど、おまえはどうなんだ?」 『そうねぇ……できれば面倒なことはしたくないけど、まぁ、しょうがないからやるわ』 「わかった。ミシェル、オレ達は協力することに決めたよ」 ジュリーの言葉はなぜだかオレ以外の人間には通じない。ジュリーの言葉というか、要は ブタ語が通じない。 ブタ語というのは、普通に声を出すと出るブー≠ニ、声を出した直後 に息を吸うと出るブヒー=A声を出した直後に更に音を重ねると出るブゴー=A鼻に声を かけずに出すプスー=A声を出す時、鼻をヒクつかせて出すフガー≠フ五つの音を使う。 それぞれの音の強弱、リズム、長さで言葉を表現する。実に簡単でわかりやすいのに、なぜか 皆マスターできない。なぜだろう? 「感謝するわ。――さっそくだけど出かける仕度をしてしてほしいの。 すぐにでも捜査をした いのよ」 「OK。で、どこへ行くんだ?」 「パリよ。 捜査が終わるまで家には帰れないと思っておいた方がいいわね」 「パリ〜!? ここから電車で丸二日かかるぞ!!」 「心配ありません。 小型機が用意してあります」 ダイアンににっこり微笑まれ、田舎っぺのオレは赤くなるしかなかった。




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