第6話 ホームシック

  ライン


捜査をはじめて約一ヵ月で、ようやく有力な名前を掴んだ。 「いろいろな麻薬売人たちの証言を照らし合わせた結果、どうやらこの人物が中心となっている ようです」 ダイアンがパソコンのキーを音速で叩く。普通キーを叩くのが速ければ速い程、カタカタと 鳴ってしまうものだが、ダイアンの場合、全く音がしない。 きっと音速を超えているのだろう。 あまりの速さで指が見えないのが恐ろしい。  しばらくすると画面に一人の名前が表示された。 「D・カルロス……名前以外に詳しい事は分かるかしら?」 「はい、少しなら……。――性別は男、年は三十代……以上です」 「戸籍は調べられないのか?」 「国籍が特定できなかったので、とりあえず、フランス、アメリカ、ロシア、イギリスの四ヶ国 のみチェックしましたが、見つかりませんでした。 D・カルロスが戸籍を持っているかどうか も分かりません」 「でも、まぁ名前が分かった訳だから、なんとかして奴を見つけよう」 『どうやってみつけるの? 相手のニオイさえあれば私とロイで見つけられると思うけど、 今のままじゃ私達は使えないわよ』 「さすがはオレのパートナー。鋭いね」 「何て言ったのか訳してよ」 ミシェルとダイアンがブタ語を理解できないのをオレはすっかり忘れていた。 「二人はニオイがなきゃ、自分達は奴を見つけられないと言ってる」 「その通りね。――カルロスのニオイが手に入ることは今後もないと思うし……困ったわね」 「このまま売人からの情報収集を続けても、もうこれ以上の捜査は期待できません」 五人はそろってタメ息をついた。 こういう仕事は心身ともに疲れるものだと最近ジュリーと 話している。  …今思うとトリュフハンターは何ていい仕事なんだろう。 仕事時間はジュリーの早業のおかげ で一時間もなかったし、なにより大自然に囲まれていた。 悪く言えば田舎だが、パリの公園 とは一味も二味も違う良さがある。  ――こんなことを思うなんて、きっと今オレ達はホームシックになりかけているのだろう。  ジュリーなんて寝言でトリュフー≠ニ叫ぶんだから重症だ。 『どのようなやり方で奴を捕まえるか、案が出なくてはどうしようもない。ここはとりあえず 少し休んで、その間に策を練った方がいいだろう』 ロイのこの提案に全員が一致した。




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