第9話 望まぬ再会V

  ライン


                  「コート、脱げよ。 こっちに引っかけておくから」 オレは自分のコートをハンガーにかけながらアリスに言った。 「じゃあ、お願い」 そう言われてオレは彼女からコートを受けとり……唖然とした。 コートの下は、信じられないことに下着一枚だけだったのだ。 しかもそれは黒色で、 清純というイメージのあった昔の彼女からは程遠いものだった。 ――こんな光景を目の当たりにした場合、普通の18歳の青年なら鼻血でも出すのかもしれない。  しかしオレはそういう目でアリスを見れなかった。  以前と180°違う世界で生きている彼女に対して、オレ自身が莫大なショックを受けていたのだ。  アリスのこんな姿を誰が想像できただろう? オレはベッドに脱ぎっぱなしになっている黒のスウェットの上をとりにいった。 「――着ろよ。 オレの寝まきだからだいぶ大きめだけど」 アリスは無言でそれに従った。 「何か食べる?」 「ううん。疲れてるからもう寝させてもらっていい?」 「もちろん。 オレも着がえたら寝るよ」 オレはベッドからさっきのスウェットの下を取ると、電気を消してトイレへ向かった。  正確にはトイレの前だ。 そこにはちょっとした隠れスペースがあって、アリスに見られず に着替えができる。 いつもは余分な場所だと思っていたが、こんな時に役に立つとは 意外だった。 オレはすばやくスウェットを着た。 上はアリスに貸してしまったので下だけで我慢するしかない。  こんな時ばかりは、ジュリーが人間だったらなぁと思う。 そしたら服の一着二着、簡単 に借りれるのに……でも、まぁありえない事を言ってもしょうがない。  早く眠るとしよう。 オレはベッドに入って横になった。 頭半分だけ枕に乗っていて奇妙な感じがする。 「もっとこっちに来たら? そのままだと寝てる間に落ちるわよ」 アリスが体を少し起こしてずり落ちぎみのオレに言った。 彼女の言っている事はもっとも だったので、オレは体がベッドにおさまる位置まで移動した。 「これなら大丈夫ね」 アリスは起こしていた体を元に戻した。 だがオレの図体がかなりデカイ為に彼女はほとんど 俺に覆い被さる様な状態になってしまった。 肌と肌が触れ合う感触がする。 ―――― まてよ、それはおかしいんじゃないか?アリスは長袖を着ているはずだ。 ―――― 少し考えてから、ようやくオレはアリスが服を着ていない事に気がついた。  きっとその方が落ち着くのだろう。いつもは服など着ないにちがいない。   こんな場合、健全な18歳の青年ならば、今ごろ鼻血を噴水のように出していることだろうが、 どうやらオレは不健全な18歳らしい。 そう言えばジュリーは俺のことを枯れた男 なんて言っていた。 そんな事はないと思うが、とにかくオレは今、アリスに対して驚きが すべてを超越してしまい、それ以外の事は考えようにも考えられない状態だった。 「なにもしないで眠るのは久しぶり」 アリスがポツリとつぶやく。 頼むからもうそんなこと言わないで。 アリスのしゃべる言葉のひとつひとつがオレの胸を苦しくさせる。 彼女にどんな言葉を 返せばよいのか。 「おやすみ……アリス」 彼女はオレの言葉に操られるように眠りに落ちていった。




back next

枠top枠novel枠