第1話 ヘリ機内にて

  ライン


朝5時に起きて、ヘリコプターに乗った。 フランス国立病院へ検査に行くのだ。   ちなみに、検査をするのはオレではなくジュリーである。 さらにもうひとつ言わせてもらえば、彼女はまさに健康そのもので悪い所なんてどこにもなく、ただ 健康チェックに行くだけなのだ。 オレはというと、ただの付き人である。はっきり言って、たまら ない。 ただの健康チェックの為だけに、日曜日の朝5時からヘリコプターで移動である。  ―――ジュリー、オレのホリデーを返してくれ・・・。 『あーもうっ!なんでこんな朝早くから病院なんかに行かなくちゃなんないのよ!』 ジュリーがプンプン怒りながら、ケロッグ・コーンフレークをすごい勢いで食べている。 言っておくが、ここはヘリの機内だ。 「おまえのせいだろ。 おまえが普通のブタだったら、近所の動物病院で済んだんだぞ」 オレはじろりとジュリーを睨んでやった。 『そんなこと言ったってどうしようもないじゃない。動物用の器械じゃムリだって言われたんだから!』 そうなのである。 ジュリーは健康診断に隣町の獣医師を訪ねたのだが、鼻の検査の際、こう言われ てしまったのだ。―――つまり、とてもじゃないが、あなたの鼻の能力は人間用の精密器械を使って 調べない限り解明はできませんよ、と。    それをフランス警察局へ報告したら、なんと国立病院まで行って来い!と言われてしまった。   それで今オレ達は警察のヘリコプターに乗っているのである。 「なあミシェル、なんで警察がわざわざこんなことしてくれるんだ?」 オレは助手席に座っているミシェルに向かって言った。 運転席にはダイアンがおり、テキパキと 操縦をしている。なんでも彼女は機械は全てOKらしい。                      ―――ジャンボジェット機も操縦できると言っていたが、いったい彼女はそんな免許をどこでとった                    のだろう。                  「ジュリーの優れた嗅覚には警察も非常に興味を持っているの。 だから、ちゃんとしたデータが 欲しいんでしょうね。」 「ふうん。 で、そのデータをどうするつもりなんだ?」 「さあ、そこまでは私にだってわからないわよ。 ただ、もしかしたらそのデータが犯罪の解決や、 抑制に効果的な可能性は高いわね」 「犯罪の抑制かぁ。 確かにジュリーの鼻はすごいけど、それが犯罪抑制にまでなるとは思えないなぁ」 オレは大きな欠伸をひとつしてから、のんびり答えた。ジュリーはまだコーンフレークを食べている。 こうやって真横から見ていると、まるで掃除機のようである。 コーンフレークが台風の目に吸い 込まれるみたいにどんどん消えていく。 ―――コイツの肺活量はいったいどれぐらいなんだろう。   もしかしたら今日それがわかるかもしれない。 オレはようやくノリ気になって、窓の外を眺めた。  遠く青い空にフランス国立病院の旗が小さく見えた。




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