長い廊下を歩いていくと、すれ違う人々が怪訝な表情をして振り返る。 理由はひとつ。オレ達がどう見てもチグハグだからである。 ―――田舎モンの若い男が一人に、スーツでバッチリ決めた美女二人(いままで彼女達の容姿に ついてはほとんど語っていなかったが、二人ともかなりの美女である)。そして美豚(ジュリー曰く、 ブタ界では結構イイ線にいるらしい)が1匹―――4人の接点はまるでナシ。 第一、ブタがなぜ人間の病院にいるのか、普通の人なら理解に苦しむだろう。 飼い主のオレだって理解に苦しんでいるっていうのに、この可笑しな事態を誰が上手く説明できるって いうんだろう? 行きと同様、帰りのエレベーターでも、もちろん注目の的だ。 乗って来た人はまず、ジュリーを見て奇声を発するか、驚きのあまり石のように固まってしまう。 そして大抵はジュリーに注目しているだけだが、中には、ミシェルやダイアンを見てうっとりしている 男性がいたりもする。 しかしオレのところにはサッパリである。なにせ、他の三人が目立ち過ぎるのだ。 ―――かと言って、オレはみんなに注目してもらいたい訳ではないのだが…。 そのへんの微妙なところをわかってもらえると嬉しい。 色々考え事をしているうちにヘリポートまでたどり着いていたらしい。 中に乗り込むとすぐに、プロペラが回り出す。 「出発します」 ダイアンの冷静な声が機内に響く。 「あっ!」 オレは思わず声を上げてしまった。―――ひとつ大事なことを忘れていた。 「ランディー?どうかしたの?」 「…いや、なんでもない」 ミシェルにそう答えてから、オレは窓の外に目をやった。 遠ざかっていく病院を見つめながら、オレはそっと呟いた。 「肺活量、測ってもらうつもりだったのに…」 額をガラスに当てると、心地よい振動が伝わってきた。 ―――肺活量は来年にでも測ってもらうとしよう。