第2話 耳鼻科にて

  ライン


「はい、それではそのままじっとしていて下さいね」 ジュリーの鼻の検査が始まった。人間用の鼻カメラが、愛玩用のブタの(筈だった)ジュリーの 鼻へと入っていく。 「正常ですね。 どこも悪いところはありません」 ジュリーの為に呼ばれたベテラン獣医師が、映し出されたモニターをチェックしながら言った。 「それでは顕微鏡検査に使う細胞を少し採取しますね」 そう言って彼はちょこちょこっと鼻カメラを操作してジュリーの鼻細胞を取った。 「はい、もういいですよ。これで終わりです」 スルスルと管がジュリーの鼻から出てくる。 あっという間だった。 時計を見てみると、まだ30分も経っていない。 こんなに早く済むなら、朝5時に起きる必要はなかったんじゃないかと思うのだが・・・。                     とりあえず、無事に検査を終えたジュリーに一言感想を聞いておこう。 「痛くなかった?」 『全然。なんにも感じなかった。───小学校の注射じゃあるまいし、いちいちそんなこと聞かなく たっていいわよ』 なんと憎たらしいブタだろう。この会話を警察長官に聞かせてさしあげたいものだ。 「おまえ小学校に行ったことなんかないだろう?」 『もちろんよ。 あんたブタの小学校なんて聞いた事あるの?』 「ないよ。 あるわけないだろう」 『じゃあなんでそんなこと言うわけ?』 「おまえがあたかも小学校にいたみたいな言い方するからだよ」 『それは人から聞いたの。インターネットのメール友達から』 オレはガクッときた。またまたインターネットである。  このブタはずいぶん前からパソコンをフルに活用して毎日の生活を送っており、インターネットで かなりの知り合いがいる。彼らはまさか自分のメールフレンドがブタだなんて知らないだろう。  まあ、「私はブタです。」と名乗ったところで、それを真に受ける人もいないだろうが、とにかく 彼女はパソコンで小学校の注射の様子がどんなふうであるか知ったらしい。 ───つくづく恐ろしいブタだと思う。 「それじゃあ先生、どうもありがとうございました」 オレは先生に御礼を言ったが、彼の方は怪訝な表情をしている。 「なにか?」 「鼻の検査はおわったんですが、まだ他の検査が残っているんですよ」 「えっ?オレは鼻の検査だけだと聞いてたんですけど・・・?」 オレは後ろを振り向いて、じろりとミシェルとダイアンを見た。 「えっと、ランディー、その、警察局の方が他の事もついでに調べて来いって・・・」 「他の事って?」 「脳波とか、知能指数とか・・・」 「ふう〜ん。 警察はずいぶんと自分勝手なことをしてくれるね」 「・・・・・」                    ミシェルが黙り込んでしまったので、追求する気も失せてしまった。                    「しょうがない。次の検査に行こうか」 オレは先人きって耳鼻咽喉科をあとにした。




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