第6話 結果は…

  ライン


「なぁ、IQテストってこんなにもスラスラできるもんなのか?」 『さあね。そんなこと、あたしにだってわかんないわよ』 「自分のIQはどれぐらいだと思う?」 『さぁ? そもそも、あたしはブタだしねぇ』 ジュリーはそう言って鼻をプスーと鳴らした。ここでブタ語の解説を少しだけしておくと、この "プスー"の音には、ひねくれた感情は含まれていない。ここで"ブヒー"を使うと、嫌味やひがみなど 抗議の類の表現になるのだが、彼女の場合、自分がブタであることに嫌悪感を感じていないので、 "プスー"と言ったのだ。 …余談だが、ジュリーが"ブヒー"という表現を使うのは、良質のトリュフが採れなかった時と、オレ が安物のコーンフレークを買ってきてしまった時くらいである。他にも何かにつけてブヒブヒ言って はいるが、それほど怒っていないことが多い。オレの勝手な解釈ではあるが…。 「ミスターロッドマン、集計結果が出ました」 医者が千鳥足で駆けてくる。しかも顔面蒼白で今にもブッ倒れそうである。 どうもここの医者はヤワでいけない。"あらゆる場面でも冷静さを失わず、何事にも的確な判断を しろ"とまでは言わないが、せめてもう少しだけ落ち着いて欲しいものだ。 これじゃあ、まるで コメディー映画のワンシーンを見ているような錯覚に陥る。 ここは現実の世界なんだから、もっと 現実感があっていいはずだ。 「どうぞ。御覧になって下さい」 医者はそう言って紙を一枚オレに渡した。紙は彼が持っていた部分がひどくヨレヨレになっていて、 一目で彼が手に冷や汗をかいていることがわかった。 ―――もしかすると、もしかするのかもしれない。 オレはゆっくりと目を移していった。 「…IQ…185…!」 自分は反射神経が割とあるほうだと思っていたが、今回はさすがに驚くのが遅れた。  ジュリーがブタを超越したブタだということは十分承知していたが、まさか、彼女のIQが185だなんて オレは思いもしなかったのだ。 「ジュリー、おまえって…」 『なによ?』                 「おまえ、本当にブタなのか?」 『どーゆーイミよ、それは』 「だから…実は人間の脳ミソ移植してる、とか…極秘の動物実験で生まれたスーパーアニマルだった                  りして…」                 『…それ、冗談で言ってるならいいけど、ホンキで言ってるなら蹴り飛ばすわよ』 「いや、冗談だよ、冗談」 本当は半分ホンキだったのだが、なんとかうまくごまかした。 「先生?このテスト結果なんですけど…」                  オレは隣で銅像のように固まって動かない医者に向かって話し掛けた。 「……………………なんでしょうか?……」        「あの、このこと、できるなら公の場で発表するようなことはやめて頂きたいんですが」 「…………………えぇ……、いいですよ……」           だんだん彼の反応速度は回復しつつあるが、それでも、ほぼ放心状態でオレの言う事にもやっとこさ                 答えているといった感じである。ちゃんと約束を守ってくれるだろうか?  これを公表したら絶対に、テレビやら、報道陣やらが押しかけてくるにきまっている。  一ヶ月は休みなど取れないだろう。そして何よりも、本人であるジュリーが騒がれるのが嫌いなのだ。 「先生、本当によろしく頼みますよ」 オレは再度、確認をした。こういうことは念には念を、である。 「………………はい、わかりました…」                  正直なところ、かなり不安である。これで大丈夫なんだろうか? もう一度聞いてみてもいいが、今の状態とあまり変わりはないだろう。 ───誰か放心状態の人間に、しっかり物事を記憶させておくにはどうすればいいのか、オレに教え                  てくれ…。




back next

枠top枠novel枠