第9話 意外な笑顔

  ライン


「じゃあ、この書類は頼んだぜ。鼻の方は結果が着き次第、警察に送ることにするよ」 「OK。―――わざわざこんな所まで連れてきちゃって悪かったわね。検査に協力してくれて ありがとう」 「別にいいさ。それに検査を受けたのはジュリーだからね。そういうことは本人に言ってあげた 方が言いと思うけど」 「そうね。ジュリー、どうもありがとう」 『いえいえ、何か贈り物のひとつでもくれれば、十分よ』 ジュリーは鼻を鳴らして答えた。 「ジュリーが"どういたしまして"だってさ」 『…ちょっとあんた、ちゃんと通訳しなさいよ!』 オレはジュリーを完全に無視した。そんなこと言える訳ないだろう。 まったく、このブタはずうずうしい事このうえない。 彼女の言葉を一字一句違わずに伝えていたら、必ずまわりの人達のジュリーの評価は変わるだろう。 ―――試しに一週間やってみようか。 いや、やっぱりダメだ。 そんなことしたら、確実に仕事が無くなってしまう。オレのやるべきことは、ジュリーの言葉を そのまま"通訳"するのではなく、当たり障りのない言葉に"意訳"することだと思う。 「それでは、これから自宅に御送り致します。屋上のヘリポートまで移動して下さい」 「大丈夫?」 「何が、ですか?」 ダイアンは不思議そうにオレを見上げた。 「行きも帰りも操縦なんて疲れるだろ?」 警察官がヘリの操縦をするなんて、オレは聞いたこともない。もちろん、免許は持っているのだから 安全性に問題はないのだろうが、普段のデスクワークに比べると、はるかに疲れる仕事のように思える。 「そんなことありませんよ。ヘリコプターの操縦は好きですし、疲れたこともないんです」 ダイアンが笑って答えた。彼女が笑ったのは初めてだったから、驚きでしばらく動きが止まってしまった。 彼女は常にポーカーフェイスで、ミシェルと話している時だって、必要以上のことは自分から口にしない 無口なタイプなのだ。 『ちょっと、早く帰んない?』 オレの感動のひとときを、ジュリーの言葉が遮った。 本当にジュリーはマイペースで、自分の思ったことは迷わず口にする。 ま、オレとジュリーの間には、遠慮も何もないのだから当然ではあるが…。 「はいはい、わかったよ。帰ろうか」 なんだかんだで、ジュリーの一言でオレ達は動き出した。




back next

枠top枠novel枠