第1話 目覚めの一撃

  ライン


「…チリリリリ…チリリリリ…」 「はい、ロッドマンです」 遠い記憶の片隅で、電話の音がする。そして誰かの声もしている。 「あぁ、ミシェル。おはよう。…うん、…はいはい。まだ寝てると思うけど、叩き起こすわ。 …ちょっと待っててね」 どうやら、電話の相手はミシェルで、取ったのはジュリーらしい。 そしてジュリーはオレを叩き起こすつもりのようだ。 …きっと優しく起こしてはもらえないんだろうなぁ。 ジュリーが蹄の音をカタカタさせて近づいて来る。 叩き起こされる前に、さっさと起きてしまった方が利口だろうか? でも、眠い。オレはもう少し寝ていたい…もうちょっとだけ…。 『覚悟!』 薄目を開けると、ジュリーの飛び蹴りがオレの顔めがけて飛んできている。  こいつは最近、キックボクシングにすっかりはまってしまい、毎朝こんなふうにいろんな技を掛けて くるのだ。全く、コイツは自分がブタであるということを、忘れてはいないだろうか。 「蹴りが甘いわっ!この若僧がっ!」 オレはしっかりとジュリーの首根っこを捕まえた。 「こんな短い足でハイキックが決まるとでも思っているのか。もう少しブタの体型に合った技を 見つけるんだな」 オレに両足をがっちりホールドされた状態で、ジュリーは不満そうに声をあげた。 『そんなのあると思う?』 「いや。そもそも、人間用の技をおまえがやろうとしてるのが、無理があるんだよ」 『…別にいいもん。自分でオリジナル技を編み出しちゃうから』 「そーかい。好きにやってくれ。―――ところで、誰から電話だっけ?」 『ミシェルよ。早く出なさいよ』 そう言って、ジュリーはオレを鼻先で小突いた。 ジュリーが飛び蹴りなんてしなければ、もっと早く電話に出れるんだが…。 この理不尽さについて口に出すと、また1ラウンド交えることになりそうなので、黙っておくことにしよう。 オレは居間まで歩いていくと、パソコンの隣に置いてある電話の受話器を取った。実はこのパソコンと 電話は直接接続されていて、誰かから電話がかかってくると、パソコンからでも電話に出られるように 設定してある。これはもちろん、オレが知らない間にジュリーが勝手にやったことである。 からくりはこうだ。電話がかかってくると、パソコン経由で受話器をONにして相手方の用件を聞く。 その後、ジュリーは話したい内容をパソコンに入力し、人間の音声に変換して相手と会話をするのだ。 この工程は随分と時間がかかりそうだが、ジュリーはしゃべるスピードで文字が打てるので、全く 不自由していない。 ───それもそのはず、彼女のブラインドタッチの師匠は、あのダイアン・ウォルスタインなのだ。 彼女の見事な指裁きは人間の動体視力では捕らえることができず、その神懸り的な技術はもはや 芸術の域に達していると言っても過言ではない。おそらく、ジュリーは世界一の先生についてもら っていると思う。




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