第1話 嫌な予感 

  ライン


"エステル・リッチ  ファンレターが爆発し大ケガ───" 何ともセンセーショナルなニュースが朝刊の一面トップを飾っている。 「おーい、ジュリー! ちょっとこっちに来いよ。また爆発があったみたいだぜ」 『ランディーがこっちに来てよ。丁度今、テレビでやるから』 「じゃ、そっちに行く」 オレは急いで椅子から立ち上がった。そのままテレビの元へ直行する。 「───ここ2・3年テレビドラマで活躍していた女優のエステル・リッチさんが昨日大ケガを負い、 近くの病院に運ばれました。───リッチさんは昨日の昼頃、事務所でファンレターを読んでいた際、 その中のひとつが爆発して負傷した模様です。命に別状はありませんが両上肢・顔面を負傷しており、 今後の芸能活動にも影響が出る模様です。───これと同様の事件が先週も起きていることから、 警察は同一犯の可能性が高いとして、事件の調査を───」 アナウンサーの流暢な喋りがスピーカーから流れてくる。 「なあ、先週って舞台俳優のジャック・レイモンドがケガしたんだったよな?」 『そうよ。確か彼も顔に大ケガを負ったはず』 「気の毒だな。二人とも顔が命の仕事じゃないか」 『だから、じゃないの? 彼らの美貌が妬ましい、とかさ』 そう言ってジュリーはソファの上で大きく伸びをした。この事件にはあんまり興味がないらしい。 『さっさと御飯食べて仕事に行くわよ』 オレは一瞬自分の耳を疑った。普段のコイツからは聞くことのできない単語が聞こえた気がするのだが。 『ちょっと!人の話聞いてんの?』 「ああ、もちろん。───で、何て言ったんだ?」 『全然聞いてないじゃない!』 怒りの声と共に、ジュリーの頭突きがオレの足に炸裂する。 オレは膝を微妙に曲げ、サスペンション機能を使って頭突きを軽く受け流す。実はブタの鼻の力は 結構なもので、30kg近い力を発揮することもあるらしい。ま、ジュリーの場合はかなり小型の ペット用ブタなので、それ程パワフルではないのが救いだ。 もし、彼女がサイとか鹿だったら、今頃オレは出血多量でとっくに死んでいるに違いない。 ジュリーがブタで本当に良かったと思う。 『ボケッと突っ立ってないで、サッサと仕度しなさいよ!』 なんだかジュリーの様子がおかしい。こんな仕事熱心なジュリーは見たことがない。 「お前…。脳に悪い菌でも入ったのか?」 『何でそうなるのよ! あたしだってたまには真面目にやるわ』 「どーゆー風の吹き回しだよ?」 『なんとなく。これは単なる勘なんだけど、なんか、しばらくトリュフが採れない気がするのよねぇ。 だから、今のうちに採っとこうと思って』 「それって、トリュフが凶作になるって事なのか?」 『さあね。私にもよくわかんないわ。ただ、しばらくトリュフと会えない気がするだけ』 ジュリーの横顔はいつになく神妙である。いつもならキラキラと輝いている黒い瞳に、ほのかに陰り が見える。顎を少し上向き加減にして彼方を見つめる仕種など、まるで恋煩いをしている少女の様で ある。しかしながら、彼女の場合、求めているのはトリュフであるから、恋煩いとは少し違うような 気もするが…。とにかく、いつもと違う感じなのだ。 「なんか、お前が言うと現実に起こりそうな気がして嫌だなぁ」 オレは手際よく出勤の準備を整えると、半ば放心状態の相棒を片手で抱き上げた。 「もし実現したら、当分給料はない訳だ。今日はバリバリ働くぞ!」 『まだ決まった訳じゃないわよ』 ジュリーはそう言ったが、オレはもう現実になるに違いないと思っていた。オレは普段予知能力の類は 全く信じないが、ジュリーが言ったとなれば別問題である。コイツの勘は100%あたると言っていい。 ノストラダムスよりもずっと正確である。予言本でも出してみようかな? 結構儲かるかもしれない。




back next

枠top枠novel枠