警察局に到着すると、入口で既に2人の警察官がオレ達の帰りを待っていた。ヨハンは容疑者を 待機していた警察官に任せると、車に戻ってトランシーバーで連絡を取り始めた。おそらく、ハ インリヒと今後について話し合っているのだろう。 「ジュリー、ダイアンはどこ行ったんだ?」 今、気がついたのだが、先程までここにいたダイアンの姿が見えない。 『ダイアンなら、さっき建物の中に入って行ったわよ。彼女も仕事があるんでしょ』 「へえ…忙しいなぁ…」 警察官というのは余り休息がないらしい。大変だなぁとしみじみ頷いていると、横から罵声が飛んで きた。 「オイ! 部外者ヅラしてんじゃねぇぞ、コラァ! 今はテメェも警察官の一員なんだかんな。 まだまだ仕事はドッサリあるぞ! ボヤっとすんじゃねぇ!」 流石に二回目となると、わざわざ振り向かなくとも誰だかわかるものだ。 「…」 「オラオラ、さくさく歩かんかい!」 ヨハンはオレの背中をドンと押した。ここが警察の内部とは思えない凄みのある言動である。 どうしてこれ程、豹変してしまうのだろう…。 「ヨハン、わかったって。わかったから、膝カックンするのは止めてくれ」 「いいじゃねえかよ。別に。痛くも痒くもねぇだろ」 「…」 歩けと言った割には、真面目に歩かせるつもりもないらしい。 オレとヨハンが不真面目に歩いていると、前方からひとり、警察官がやってくるのが見えた。 「次のオレ達の仕事は?」 「君とジュリーは荷物の検査に行ってくれ。ミシェル達もこちらに着き次第、検査に向かわせる。 私はこの後、容疑者の取調べに参加することになっている」 ヨハンの公私の使い分けは完璧である。膝カックンもぴたっと収まった。 『あっはははははっ…』 「そこのブタ! あまり大きな声で笑わないように」 いくらブタとは言え、笑われていることはヨハンにもわかったらしい。オレ達は警察官とすれ違い ながら、建物の入口へ向かった。 「…オッホン…いいか。そういうことだからな。荷物検査に行ってくれ」 「了解。場所はどこです?」 「バーロー! それぐらい自分で見つけて行け。───1階のつきあたりの保管所だ!」 警察官がいなくなると、また態度がコロッと変わった。しかし、結局どこへ行けばいいのか教えて くれるあたり、彼はいい奴である。 ヨハンは建物に入ってすぐのエレベーター乗り込むと、おもむろにネクタイを直すと軽く手を上げた。 「それでは。また後で会おう」 ヨハンを乗せたエレベーターは、あっという間に上階へと上がっていった。 「ジュリー、お待ちかねの荷物検査にいくとするか」 『あいよっ!』 ようやくジュリーもエンジンが掛かり始めたらしい。こうなったら、さっさと仕事を済ませてしまう に限る。 オレ達は足早に廊下を進むと、つきあたりの扉をノックした。 「失礼します」 「おお、助っ人君。良く来てくれた」 保管所の中には既に三人の警察官がいて、その中の一番年配だと思われる人が、オレの肩を優しく 叩いた。 「私達は準備万端なんだが、肝心の警察犬が来なくて困っていたのだよ。ああ、良かった良かった。 さっそくだが、検査を始めて貰えるかね?」 「はい。わかりました」 『あたしブタよ〜 犬じゃないわ〜』 『警察犬代わりって意味だよ、多分。それよりホラ、あれだ』 オレはジュリーをプレゼントがうず高く積まれた山まで連れて行った。 『随分とたくさんあるわね』 プススススーっと気の抜ける音を出しながら、ジュリーがぼやく。 『山積みって、あたしの体型考慮してない積み方よねぇ。途中で埋もれたら引き抜いて』 『わかった。ちょっと待ってろ』 オレは振り返って、突っ立っている3人にプレゼントをひとつずつ床に並べてくれる様、お願いして みた。彼らは今まで余程ヒマだったらしく、二つ返事で協力してくれた。 『これでいいだろ?』 『バッチリよ! あんた、珍しく気が利くじゃない! さぁ始めるわよ〜』 ジュリーはそう言うと、プレゼントの列に沿ってテケテケと歩き出した。そのまま列の最後まで歩く と、折り返して始めの所まで戻って来た。この間、わずか60秒。ジュリーは立ち止まると、オレや 警察官の方にくるっと向いて口を開いた。 『異常なしっ!』 『…………………ジュリー…、ちゃんと調べたんだろうな?』 オレは一応、念を押してみた。先程のジュリーの行動を見る限りでは、ただプレゼントの横を歩いて いたとしか思えなかったからだ。───ジュリーの能力を信頼していないわけではないが、ハッキリ 言って心配である。これはいつもの仕事とは違うのだ。トリュフを採り忘れても大した事にはならない が、爆弾を取り忘れたら一大事になってしまうのである。 『行きと帰りでちゃんと二回も調べたじゃない。あたしを信用してないの?』 『いや、オレは信じてるけどな、後の三人が信じてくれるかどうかは怪しいぞ』 オレはそっと後ろの三人に目をやった。みんな口を開けてぽかんとしている。まあ、当然の反応だろう。 彼らは、まだ検査が終わってないと思っているのだ。 一体、オレにどう説明しろって言うんだよ、ジュリー…。 オレは考えた挙げ句、いい案を思いついた。 「あの、しばらく外に出ていて貰えませんか? どうもジュリーの気が散ってしまうみたいなんです」 「そうかそうか。それは申し訳なかった。すぐそこにいるから、終わったら教えてくれ」 三人は何の疑いもなくオレの言葉を信じてくれた様である。オレ達に励ましの言葉を掛けると、タバコ を取り出しながら部屋を出た。これから一服でもするのだろう。 『ちょっと! もう検査は終わったってのに何してんのよ!』 「ジュリー、落ち着けよ。…オレを蹴るなって」 『蹴りたくもなるわよ。あたしはちゃんと調べたんだからねっ!』 「わかってるって。これはカムフラージュだよ」 『何でそうなことすんのよ?』 ジュリーの怒りはまだ収まらないらしい。オレの足にへばり付いて蹄でゲシゲシ踏んでくる。 オレはジュリーを抱き上げて、自分と同じ目の高さに持ち上げた。 「いいか。60秒で検査が終わるなんて、普通の人間は信じないぞ。オレはもちろんお前の能力を信じて るけど、あの三人は、お前がしっかり検査してるとは思わないだろう」 ジュリーはしばし考え込んだ後、おとなしくなった。オレの意見に納得した様である。 『………それもそうね。でも、あんた随分と悪知恵が働くようになったのね〜』 ジュリーにそんなふうに言われると、自分が悪人になったような気がしてくる。 「処世術って言ってくれよ」 『ランディーのお陰で、しばらくここで時間を潰してればいいわね。ラッキー♪ ───でも、天才の能力って、凡人には理解されないものなのねぇ。悲しいわ…』 「自分で言うんじゃないっ!」 こうして時間はあっという間に過ぎていったのだった。