第12話 第3会議室

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「みんな集まったかい? じゃあ、今から連続爆弾事件特別捜査第3班の会議を始めるとしよう」 ハインリヒは資料をテーブルで整えながら、メンバーを一望した。 「…第3班?」 「1班と2班はもうとっくに動き始めてるぜ。最初に爆弾事件が起こってからどんだけ経ってると 思ってんだ? 俺達は名誉ある"掻き集め臨時召集班"ってワケ」 隣のヨハンが小声で教えてくれた。 「なるほどなぁ。それで第3会議室なのか…」 「…はぁ?」 「いや、ダイアンから初めに説明を受けた部屋が"第3会議室"だったからさ、やっと納得いったんだよ。 第3班だったから、第3会議室だったのかって。この部屋もそうだろ?」 「そうだけどよぉ…お前、案外マニアックなものの見方してんなぁ…」 「そこの二人! 私語は慎みたまえ!」 ハインリヒが鋭い眼光でこちらを睨んでいる。彼は嫌味な男だが、今回ばかりはこちらに非がある。 「…すいません」 「失礼しました」 「…まあ、いい。話を続けるとしよう。ロッドマン君は外部からの召集で、これまでの経緯を知らない んだろう。今ヨハンがコソコソ言っていた通り、第1班と第2班は既に捜査を開始している。 事件直後に第1班、連続事件になってから第2班が結成されたが、未だ事件の解決には至っていない。 容疑者として有力なのはアルベール・デルビーだが、証拠に欠ける為、1班2班は新たなルートを探す ことになった。我々3班の役割としては、継続してアルベール・デルビーの調査・監視、麻薬捜査班の 技術を生かした爆弾の発見だ」 一呼吸おくと、ハインリヒはオレを一瞥してから皆に問いかけた。 「何か質問があればどうぞ」 「特にないなら、アルベール・デルビーの事情聴取の報告をしてもらおう。ヨハン?」 「はい。では私から報告を。アルベール・デルビーにいくつか質問をしてみましたが、容疑については 否認しています。第1班の事情聴取の結果と変化ありません。今回は任意同行という形を取りました ので、彼を長時間拘束する訳にはいきませんでしたが、今後もより一層強い警戒が必要だと思われます」 真面目モード・ヨハンが淡々と事情聴衆の結果を報告する。 「ありがとう。では、今後のプランについて話し合おう。今のヨハンの話だと、アルベール・デルビー には常時尾行をつけた方が良さそうだ。それから、彼の身辺調査に二人、情報集約に一人、指揮官が 一人、補佐兼調査が一人。第3班は全員で7人だから、尾行は二人でどうだろう?」 話し合おうという割には、たいして周りの意見を聞くつもりはないようだ。他のメンバーも一様に 押し黙っている。 「異論がなければ、さっそく配置を決めよう。尾行はフィリップとバーニー。身辺調査はヨハンと ロッドマン君。指揮官は僕、情報集約はダイアン。情報はダイアンに一旦集約してから、僕に通して くれ。───そうなると…補佐はミシェルってことになるかな」 ナルシスト君はニッコリ微笑んでウインクをした。何とも大胆な作戦に出たものだ。自分の地位を 最大限に行使した、頭の良いやり方だ。ある意味、感心してしまう。…感心している場合ではないが。 「ひとつ確認があるんですが」 全身に鎧を纏っているかのような重苦しい表情で、ミシェルが手を挙げた。 「何だい、ミシェル?」 「私…指令官補佐"兼"調査、ですよね?」 「そうだよ。何か問題あるかな?」 「…いえ。先程、"補佐"とだけ言われましたので。自分の仕事を明確に知っておきたいと思いまして」 硬い表情のミシェルとは反対に、ハインリヒは上機嫌だ。 「身辺調査はヨハンとロッドマン君が中心だから、人手が足りなくなった時に補助に入ってくれれば いいよ。後は合間に荷物の検査かな。暫くは僕の補佐でいいと思うけど」 「…わかりました」 「それじゃあ、これからの捜査は各自で動いていくことにしよう。ただし、情報の交換は各自でしっ かりやって欲しい。連絡係はダイアンでいいかな? …OK。それから、何か事件の進展があった際 はメンバーを召集すること。…以上」 そう言い残すと、ハインリヒは席を立って第三会議室から出て行った。 司令官という立場は色々と忙しいのだろう。 机に突っ伏して無言でいるミシェルに近づく。 「すぐに応援要請するからさ、あんまり落ち込むなよ」 「…ありがと。なるべく早く呼んでね」 「あんないけ好かないヤロー、蹴飛ばしてのしちまえよ。空手3段なら余裕だろ?」 マジメモードから切り替えたヨハンが悪態をつく。 そういえばミシェルは空手の有段者だった。警察の中での大会でも毎回上位入賞していると聞いた ことがある。おそらく、その気になればハインリヒなど一発KOできるはずだ。 「…司令官をのしたらマズイでしょう。私、まだ仕事辞めたくないのよ」 「…あんにゃろ〜職権乱用しやがって! ホントにムカつく野郎だぜっ。ったくよ〜」 「大丈夫よ。何かしてきたら躊躇わずに落とすから…」 "落とす"とは、"気絶させる"という意味である。 ミシェルの怒りはそれ程までに達していたらしい。 「ちょ、ちょっと待てよ。それこそマズイだろう」 「正当防衛よ、正当防衛」 「そうだっ! 正当防衛バンザーイっ!」 「…オイオイ」 人間達(ミシェルとヨハンだけ)はやたらとヒートアップしてしまったので、他に助けを求める ことにした。 「ロイ、どうにかしてくれよ」 『任せておけ。ご主人様に何かしでかしたら、私がこの牙で撃退してやる。フランス警察犬協会 パリ支部・第27期主席の名を掛けて誓う』 「…」 ロイの牙がキラリと光った。これは間違いなく本気である。彼は冗談など一言も言わない真面目 な男なのだ。しかも主席の名前まで掛けるとは。・・・主席だとは初めて聞いたが。 『みんな物騒ね〜』 ジュリーがトコトコと歩いてくる。 『そろそろお昼にしない? お腹すいてるとイライラするわよ〜。とにかく食べてから話しましょ』 「…」 相棒のマイペースさには、毎回驚かされる。だが、彼女の言い分もわからなくはない。 実はオレも少しお腹がすいていたのだ。 オレは皆にランチの提案をしてみた。 気分転換になるのではないかと思ったが、逆効果だったらしい。 ミシェルには白い目で見られ、ヨハンには「薄情者!」とボコボコにされたことは言うまでもない。




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