第14話 呼べば出る?

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「ジュリー、今日も頼むぜ」 翌日。オレとジュリーは朝から保管所にいた。 保管所の中は、毎日大量に運び込まれるプレゼントの箱が積み上がった結果、いくつもピラミッドの ような山ができあがっている。 オレの仕事はというと、ジュリーの為にピラミッドを床一面に広げては積み、また広げては積みとい う単純作業の繰り返しである。 『はいはい、どーせ爆弾なんて出やしないわよ』 文句を言いながらも、ジュリーはせっせと小包を嗅ぎ分けていく。基本的には仕事熱心なのだ。 『もう何百個と調べたけど、爆弾なんて1個も出ないじゃないの。あ〜あ、退屈でしょうがないわ』 これぞ正に爆弾発言と言ってよいだろう。爆弾捜査の一員が何を言っているんだか…。 『爆弾ちゃ〜ん♪ 出ておいでったら爆弾ちゃ〜ん♪ あたしは暇で暇で死にそうなのよ〜♪  爆弾ちゃ〜ん♪』 ジュリーは不吉な鼻歌を歌いながら検査を続けている。 『爆弾ちゃ〜ん♪ 出ておいでったら爆弾ちゃ〜ん♪ あたしは暇なの爆弾ちゃ〜ん♪  出ておいでったら爆弾ちゃ………』 突然、ジュリーの動きが止まった。あいにくオレに背を向けているので表情は見えない。 「おい。ジュリー、どうした?」 『ランディー。……爆弾』 「…………」 何やらジュリーがポツリと呟いたが、その内容がオレの耳から脳ミソに伝わるまでに、 たっぷり十秒はかかってしまった。 「…………何だって?」 『だから…爆弾ちゃんが、本当に出ちゃったみたいなのよね』 「どれだ?」 『この赤い包みの中』 「…これか…」 注意深く周りの箱を片付け、赤い包装紙の箱だけを残していく。おそらく、爆弾入りの箱を 持ち上げても爆発することはないだろうが、万が一に備えて慎重に取り出すことにする。 「よし、これで大丈夫だろう。外に出て報告するか」 『そ〜ね〜』 保管所の外に出ると、警察官が2人、タバコをふかしながら談笑していた。 初日には3人いたはずだが、あまり人員が必要な作業ではないと上層部も気付いたらしい。 もっと人員配置を縮小しても良さそうなものだが、それはオレの関知することではない。 とりあえず年配と思われる方に声をかけてみる。 「ありました。爆弾です」 「……………………ほ、ほ、ほ、本当かっ!」 言った相手が悪かったのかも知れない。 年配の男性は"爆弾"という言葉を聞いた途端、顔が真っ青になって手がカタカタ震えだした。 『このオジサン、結構メタボリックな感じだけど、心臓大丈夫? あたし、発作とか起こされ るの嫌よ』 『仮にも警察官なんだから、大丈夫だろ? 隣の男の方が良かったかな?』 相手に聞こえるとマズイので、人間の言葉は伏せて会話する。 ふと隣の警察官に目をやると、震えてはいないものの、目を白黒させている。 どっちもどっちという所か。とりあえず、この爆弾を処理しなければ…。 「本当に爆弾です。直ちに連絡をお願いします」 「───だ、だ、…誰に言えばいいんだったかな…?」 完全に彼の頭は真っ白になっている。彼はあんまり警察官に向いていない性格なのだろう。 そうでなければ、こんな歳で保管所の番などしていないはずだ。 「ハインリヒ司令官に連絡を」 「…よ、よし。わかった」 メタボリックな彼は、ようやく電話をかけ始めた。これで何とかなるだろう。 ホッと胸をなでおろしたオレの横で、ジュリーはノンキにおやつの乾燥マッシュルームを 食べている。 『毎日これくらいスリルがなくっちゃね〜』 『…毎日あってたまるかっ!』 それから2時間後、爆弾処理班の手によって爆弾は無事に解体されたのであった。




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