第15話 デジャヴ???

  ライン


「今日みんなにこうして集まってもらったのは、他でもない。連続爆弾事件に関する重大な進展 があった。今から、それについて報告したいと思う」 爆弾捜査班の緊急会議でハインリヒが切り出した。場所はいつもの第3会議室である。 前回は捜査開始前ということもあり、少し和やかな雰囲気だったが、現在はピリッとした空気 に包まれている。 「つい先日、プレゼントの小包の中からプラスチック爆弾が見つかった。知っての通り、爆弾は 無事に解体されて大事には至らずに済んだ。現在、解体後の爆弾は鑑識に回してある。 来週あたりには、鑑識から詳細なデータが挙がってくるはずだ」 「やったな、オイ!」 「でかしたっ!」 丸テーブルの両隣に座るヨハンとフィリップから、同時に声が掛かった。ヨハンはオレの脇腹 にチョップを入れるというオマケ付きだ。 「別に…爆弾見つけただけで、犯人はまだ見つかってないんだし…」 「…これだから素人はよぉ…。テメェ、自分の手柄に気づいてねぇな。今まではな、爆弾がドーン と破裂した後に動き始めてたせいで、犯人に繋がる証拠が全部吹っ飛んじまって無かったんだよ。 それが、今回サラの爆弾をゲットできたお陰で、イロイロと新しい情報が入ってくるってわけ」 「…ふ〜ん」 「あんまし判ってねぇって面だなぁ…。このルートの新情報ってのはマジで重大なんだぜ?」 ヨハンは呆れ顔と言った表情だ。しかし、爆弾捜査自体が初体験だというのに、情報の重要性 など素人にわかるはずもない。 「ヨハン、君の説明の仕方が悪いんじゃないか? それから、仕事中は言葉使いに気をつけるよう にと言ったと思うけれど」 「…失礼しました」 ヨハンは肩をすくめて椅子に座りなおした。暫くは静かにしておくつもりらしい。 「ヨハンの説明に補足すると、今回の爆弾発見によって、今まで証拠物の破損により不可能だった 指紋を同定できる可能性が高い、ということが重要なんだ。指紋があれば、それは即ち犯人へと 結びつく。これ以上の証拠はないと言ってもいいだろう。あとはこちらの捜査力次第ということ になる訳だが…。もし、犯人が指紋を残していないにしても、爆弾の材料から犯人の足がつく 可能性は高い。そう言った意味で、今回の爆弾自体から得られる情報を基に捜査が展開できること は、新たな捜査ルートとして非常に重要になってくる、というわけだ」 「…はい。よくわかりました」 同じチームのメンバーというよりは、教師と生徒のような関係になりつつあるが、ここは素直に 返事をした。爆弾捜査に関して、オレが無知であることは事実だからだ。 見栄を張っても仕方がない。 「1班・2班はこれまで目撃情報を中心に容疑者の特定を進めてきた。だが、我々3班が爆弾を 発見したことにより、新たなルートで容疑者を絞っていくことになるだろう。我々は、継続して アルベール・デルビーの身辺調査と爆弾検査を進めていく。これに関して質問は?」 『ハイハイハイ! 3班の手柄なのに、なんで1班と2班に捜査させんのよっ!!!  あたしは納得できないわよっ!』 人間は誰も異論はないらしい。オレの相棒だけが鼻息を荒くしている。 『プレゼントの検査はもう飽きたの!』 …それが本心か。少しがっかりする。 「質問が無いようなら、次の話題に移ろう。鑑識からの調査結果はまた改めて報告するよ。 ───それじゃあ、フィリップ、頼む」 オレが通訳しなかったことに腹を立てたジュリーが、オレのパイプ椅子の脚を齧りだしたが気に しないことにする。かわりに隣のフィリップに注意を向ける。 「はい。今回爆弾が見つかったおかげで、犯人がどの郵便局から小包を送っていたのかわかりました。 郵便局側によれば、犯人が爆弾を持ち込んだのは一昨日の事だそうです。私とバーニーはその日も 一日中、彼を尾行していましたが、彼は郵便局など行っていません。 つまり、…爆弾を持ち込んだのは、全く別の人物と思われます」 この報告に、一同静まり返っている。全く別の人物というのは一体誰なのだろう。 「ヨハン。君はこれをどう見る?」 ハインリヒに名指しで尋ねられたのはヨハンだった。こういう大事な場面で意見を求められる所 を見る限り、ヨハンは随分とその能力を買われているようである。…意外なことだが。 「そうですね。この場合は2つのパターンが考えられます。まず、一つ目は犯人が誰かを利用して送ら せたというケース。もし犯人が警察の尾行に気づいているとしたら、まずこの方法を取るでしょう。 二つ目は共犯がいるというケースです。この場合、我々はアルベール・デルビーしかマークしていま せんから、もう一人の方は自由に動いている事になります。まあ、共犯者が一人とも限りませんが」 「なるほど。それで、君は単独と共犯どっちだと思う?」 「今の所はハッキリとは言えませんが、共犯の可能性が高いと思われます。彼らが共犯であれば、 いつも現場に現れるデルビーの不信な行動も納得がいきます」 「そうだな。僕も共犯の可能性が高いんじゃないかと考えているんだが…。どちらにせよ、決定的な 証拠がないまま判断することは危険だ。君達にはあらゆる可能性を考慮して捜査に臨んでもらいた いと思っている」 「…ハインリヒ司令官、ひとつ質問が」 「なんだい、ミシェル?」 ハインリヒは笑顔で促した。 「今後の捜査体制に変更は?」 わざわざ聞くということは、かなり期待値が高いということだろう。 ハインリヒはにっこり微笑んだ。 「ああ、人員配置については前と一緒だよ。尾行はフィリップとバーニー。身辺調査はヨハンと ロッドマン君。二人は共犯の線も考えて交友関係の調査にも力を入れてくれ。それから、情報 集約はダイアン。ミシェル、君は僕の補佐だ」 無言で机に突っ伏すミシェルを見て、ヨハンがポツリと言った。 「…デジャヴだな」




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