第16話 情報管理課U 

  ライン


機械音が絶えず鳴り続ける"情報管理課"の中を、たくさんのコンピューターをかき分けながら進む。 目指すはダイアン・ウォルスタインのデスクだ。最初に来た時は、案内してもらわなければとても 辿り着けるものではなかったが、もう迷うこともなくなった。情報集約係である彼女のもとには 何度も足を運ぶ必要があり、自然とデスクの位置は覚えてしまったのだ。 「ダイアン。ちょっと調べて欲しい事があるんだけど」 オレはパソコンに向かっている彼女に声を掛けた。ダイアンはいつもの通り、パソコンの画面に 向かいキーボードを叩いている。 「何でしょう?」 「アルベール・デルビーの電話の通話記録が欲しいんだけど」 「どれぐらいの期間要りますか?」 「そうだなぁ、とりあえず1年分くらい」 「わかりました。ちょっと待って下さい」 ダイアンがパソコンを操作すると、ものの2、3分でプリンタから通話記録が出てきた。 こんなにも簡単に個人情報が出てくるとは驚きである。迅速な捜査のために必要なシステムなの だろうが、一方で少し不安に感じてしまう。…ジュリーなら確実に乱用するだろう。 「ありがとう」 「気にしないでください。仕事ですから。ところで、捜査の進み具合はどうですか?」 「それが、なかなか思うように進まなくて困ってるんだよなぁ。───アルベール・デルビーの家族 も友達も当たってはみたけど、何の手がかりもなし。仕方ないから、今度は通話記録から洗ってみ ようって話が出たんだ。オレはヨハンのパシリ」 オレは肩をすくめて見せた。 この一週間と言うもの、不眠不休で働いているが、共犯者らしい人物は全くと言っていいほど挙がっ てこない。ヨハンの推理が間違っていなければ、それらしい人物が出てくるはずなのだが…。 答えの出ない迷路に迷い込んだオレの視界を、ダイアンの差し出した封筒が遮った。 「これ、鑑識から来た報告書です。どうぞ」 「?」 オレは一瞬、何の報告書だったか思い出すのに時間がかかってしまった。 確か、ハインリヒが"犯人の指紋が判るかも知れない重要な書類"と言っていたモノである。 「ありがとう。すぐにヨハンに届けるよ!」 「…あの…。届けるだけじゃなくて、貴方も読んでくださいね…」 少し心配げなダイアンに頷き、小走りでデスクを後にする。 このまま、ヨハンの待つ駐車場までダッシュで行くとしよう。 「…あの…廊下は走らないでくださいね…」 ダイアンの声が後ろから小さく聞こえた。




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