第17話 鑑識結果

  ライン


息を切らして外へ出ると、入口にヨハンの車が待機していた。オレは急いで中に乗り込むと、 ヨハンに封筒をヒラヒラ見せた。 「お────、ご苦労、ご苦労。 何だぁ? そのシケた茶封筒はよぉ?」 ヨハンはリラックスパイポをスパスパ吸いながら嬉しそうに言った。 「わかってるんだろ? 鑑識の結果だよ」 「サンキュー、サンキュー。 さてと。何かいーこと載ってねーかなぁ?」 ヨハンは上機嫌で封筒をバリバリ破いていく。 「────えっと、なになに…犯人の指紋は検出されず。手袋を使用していた、もしくはマニ キュア等で指紋を消していたものと思われる。…爆弾や包み紙に正体不明の特徴的な粉末が 付着していたが、未だ特定できておらず…って、何だぁ? この結果はよぉ。特徴的なら何 だか特定しろってんだよ! …鑑識のヤツら、もっとしっかり調べんかい!」 ヨハンはパイポをブンブン振り回してステアリングを叩いた。相当、頭にきているらしい。 「まぁ、まぁ、とりあえず先を読んでくれよ」 「おう。───んーと、なになに…爆弾に残っていた指の形や大きさから判断するに、爆弾を 作ったのは女性か子ども、もしくは手の小さな男性…って、マジかよっ!」 ヨハンはその場で飛び上がった。もちろん、オレも同時に飛び上がった。 今の衝撃でかなり車が揺れたのではないだろうか…。 「それじゃあ、アルベール・デルビーは犯人じゃねぇじゃねえか!」 「共犯がいるとは思ってたけど…まさか爆弾を違う人が作ってたとは…」 「…ああ。デルビーが化学薬品会社に勤めてるからって、爆弾作りまでしていたワケじゃねえっ てことか。初めから決めつけたのが間違ってた訳だ。───ああ、くそっ! とんだ見当違い をしていたぜ」 ヨハンは額に手を当て、悔しそうに呟く。 「ランディー、いちからやり直すぜ! いいか?」 「了解」 「よし。 まず頭を空っぽにしろ。次にどんな奴が爆弾を作ったか考えるんだ。いいか、今回の 事件で使われてるプラスチック爆弾ってのは、小さくてもスゲェ威力を持ってるモンだ。だからな、 犯人がその気になりゃ、建物ごと吹っ飛ばすことだってできたはずだ。それなのに、犯人はターゲッ トだけを狙ってる。しかも命は取らずに狙うのは顔ばかりときた。プラスチック爆弾使ってこんな微妙 なこと、シロウトにできると思うか?」 「まぁ、無理だろうなぁ…」 オレは即答した。 「だろ? …ってことは、相手はプロ。しかもそいつはアルベール・デルビーと何かしら関係がある。 てめえだったらどうやって調べる?」 今度の質問は難しい。オレは少し答えに詰まった。 「そうだなあ…彼の仕事関係で爆薬を扱ってる所をあたって…」 そこまで言ってオレは気がついた。そんなことはもうとっくに調査してしまっていたのだ。 ヨハンはオレの答えを聞くと、フ──っとため息を吐いた。 「俺も正直、手詰まりだ。よし、こうなりゃ一旦メンバーを集めて相談すっか? 俺達二人でグダグダ 悩んでたって埒があかねぇからな」 ヨハンはニヤッと笑うと車のエンジンを切った。 「困った時に助け合ってこそ、チームワークの意味があるってもんよ」 車のキーを素早く抜くと、ヨハンはあっという間に車から降りて歩き出した。オレも慌ててドアを開けて 後に続く。 「おっせーな! 置いてくぜ!」 どうもオレの周りの人間は、ジュリーも含めオレより行動が早い。要するに、オレがトロいということ なんだろう。 エレベーターにギリギリ乗り込むと、ヨハンがニヤリと笑って言った。 「鈍臭いワリに、追いつくのは速ぇよな」               「まあね」 …オレの本職はトリュフハンター。ジュリーの後についてトリュフを拾うのが仕事だ。                    追いつくのはプロなのだ。これでも。




back next

枠top枠novel枠