第2話 家事分担?

  ライン


"3人目の犠牲者はモデルのマリー・ラローク" こう新聞が報じたのは、前の事件が起きてから5日後の朝のことだった。 「…物騒だな。早く捕まえないと被害者が増えそうなカンジだぞ」 最初の事件の時は、それほど紙面で大きく扱われてはいなかったのだか、被害者が増えるたび、 新聞の一面を占める割合が高くなっている。 『全く、警察は何やってんのかしらねぇ』 「そりゃあ、全力を尽くして捜査してるに決まってるだろ。連続爆弾犯なんて、警察に喧嘩売って るようなもんだし。…ま、犯人逮捕は時間の問題だろ?」 オレはそう答えると、パンを牛乳で喉の奥へと押し込んだ。 平日の朝というものは本当に忙しい。一人暮らしのせいで、様々な家事までやらなければいけない からだ。 まあ、ジュリーを人間として数えて差し支えなければ、二人暮しと言えなくもないが、彼女は家事を 一切しない。そもそも、4つ足のブタには、家事を行うことは非常に困難なのだ。彼女の胴長短足の 体型では、キッチンも洗濯機も届かないのである。冷蔵庫だけは鼻先で器用に開けられるが、人間用 に設計されたものは、彼女にとって不便なものが多い。 …となると、家事については、完全にオレの担当ということになる。普段は仕事の前に、多少なり とも掃除をしてから出かけているが、今日は新聞を読むことに時間を取られてしまい、ただでさえ 慌しい朝の時間がさらに短くなってしまった。 「お前の勘は当たらなかったな」 オレはハムとサラダと卵を一気に飲み込むと、席を立った。 「ご──────────────」 これはジュリーがコーンフレークを食べる音である。 いや、正確にはコーンフレークを胃まで吸い込む音、だ。 バキュームカーのようなジュリーの肺活量は"物を噛む"という行為を必要としない。この食べ方は一見、 消化が悪そうであるが、ジュリーにとっては何の影響もないらしい。また、彼女に言わせれば、"虫歯が できない、すばらしい食事法"だそうである。 『確かに、私の勘は当たってないわねぇ。近いうちに仕事がストップすると思ってたんだけどなぁ〜』 ジュリーはそう言いながら、残りのコーンフレークを全て吸い込んだ。 …そうなのである。ジュリーの勘は今まで100%の確率で的中していたのに、どうやら今回は外して しまった様なのだ。もう5日が経つが、トリュフは例年以上の豊作だし、オレ達がクビになるなんて 事態も起きてはいない。もちろん、そんなことにならなくて良かったとは思うが、ジュリーを信じて 必死に働いてしまった5日間が無駄に思えてくる。しかし、これはオレが勝手に信じて行動したこと だから、ジュリーを責めるのは御門違いというものだろう。 「さてと、今日もとばして行きますか」 『あいよっ!』 オレは登山用のリュックサックを背負うと、ジュリーを抱えて外へと飛び出した。




back next

枠top枠novel枠