第5話 車中にて

  ライン


ダイアンの後を追って走る事3分。 オレ達は廊下を抜けて階段を駆け下り、1階までたどり着いていた。 この3分間、新たな事件に対する不安はあったが、同時に妙な落ち着きもあって、オレは不思議と 落ち着いていた。このヘンテコな現象は、どうやら職業病からきているらしい。オレの本来の仕事 スタイルは、ジュリーの後について走ってトリュフを籠に詰めることである。実に能がない仕事内容 だが、誰かの後について走ることにかけては一応、プロなのだ。 駐車場に入っていくダイアンを余裕で追い駆けながら、ズラリと並ぶパトカーに目をやる。 先程の放送で既に何台かのパトカーが出動しており、残りのパトカーにも続々と警察官が乗り込んで いる。ジュリーは一体どこだろう? 周りを見渡しながら、一台のパトカーの助手席に乗り込む。 ダイアンが素早くエンジンをかけ、車を発進させる。だが、すぐ前方にもパトカーがいるため、あまり スピードは出せそうにない。オレは四方に目をやり、ジュリーを探す。 どうも、5台前の車が怪しい。200m程先だが、車内の人影に混ざって豚影と犬影が見える。あれは                    間違いなく、ジュリーとロイだ。 「ダイアン、5台前の車がミシェルの車だ」 「わかりました。それにしても、よく見えますね」 ダイアンが驚いてオレの顔を見る。 「視力だけは異常にいいんだ。オレの中のアフリカの血がそうさせてるんだと思うけど」 「サバンナの住人は非常に視力が良いと聞いたことがあります。でも、あなたがアフリカ系だったとは 初めて聞きました」 「まぁ、ほとんど外見に出てないし、混血も混血で自分でも把握しきれてないからなぁ。こういう場面 でもなけりゃ、言う機会もないし」 「そうでしたか。私とは逆ですね」 ダイアンは再び視線を前方に移し、交差点を右折した。彼女が言いたいことは、こうだ。 彼女の苗字「ウォルスタイン」は、聞いた瞬間に人種がわかる名前である。「〜スタイン」はユダヤ系 であることを示しているからだ。オレは人種問題には疎い方だが、このくらいは承知している。 「人種の違いはさておき…」 ダイアンは自分から話題をふった割には、早々と切り上げるつもりらしい。 そもそも彼女は自分について多くを語らないタイプなので、ここまで話したこと自体が貴重ではある。 「バックミラーに一台、猛スピードで追い越してくるパトカーが映っているんですが…」 「え? 後?」 驚いて後を振り返る。 「見えます?」 「…ああ…。ハッキリ…」 猛スピードで走ってくるパトカーには、パーティー以来の顔合わせとなる、例の人物が乗っていた。 視力が良い事を、今回ばかりは恨めしく思ってしまう。 「ハインリヒ・ドゥ・ラ・フルト…」 一気にテンションが下がるオレの横を、ハインリヒの車があっという間に追い抜いていった。




back next

枠top枠novel枠