第8話 容疑者現る 

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「ここで見張るとすっかぁ」 城の正面の門の前で、ヨハンが立ち止まった。 「容疑者は来ると思う?」 「五分五分ってトコじゃねぇか? 連続爆弾事件に見せかけて、別の人間がやったっつー可能性も 否定できねぇし」 「確かに。貴族を狙うっていうのは、今までの事件とは違うよな」 先程ダイアンに聞いた話を思い出しながら、自分なりの意見を言ってみる。これまでの被害者の ジャック・レイモンドは俳優だし、エステル・リッチは女優、マリー・ラロークはモデルだ。 年齢的にも、少し毛色が違う感じを受ける。 「ヨハン、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」 「あ? 何だ?」 「容疑者の特徴を教えてくれ」 「…あぁぁぁぁぁぁ? お前、説明受けただろ? これから見張り番すんだぞ。コラァ! 警察 ナメてんのか?」 「ちょうど容疑者の説明を聞いてるときに、事件が起きたんだよ。不可抗力、暴力反対!」 恐い顔をしてオレの襟首を掴みかかっていたヨハンは突然、パッと両手を離した。 「悪ィな。勘違いしちまった。いいぜ、教えてやる」 そういうと、ヨハンは野次馬の群れを親指で軽く指差した。 「あっちの奥の歩道、見てみな。あ、ガン見はすんなよ。マークしてるのバレたらブッとばす かんな」 ヨハンは手を使わずに、顎でその方向を指し示した。オレが彼に言われた通りの歩道を見ると、 4人の女性と3人の男性がこちらに向かって歩いてくるところだった。男性は3人とも会社員風 で服装にこれと言った特徴はないが、一人はかなり背が高い。顔立ちからすると、身長の高い男 が一番若い様子だが、一般人の視力ではシルエットしかわからないだろう。こういう状況で、 ヨハンはマークしている人物を見つけ出せたということは…。 「…背の高い男か」 「ビンゴ。おめぇ、そこそこハナシがわかりそうだな。それにしてもよ、目立ちすぎると思わ ねぇか? アレ」 確かに彼は非常に目につく存在だった。おそらく2メートルを超えているだろうと思われる身長は、 野次馬の中でも頭ひとつ以上飛び抜けていて、目立つ事この上ない。 これではまるで、"注目してくれ"と言っているようなものである。どうして現場に現れるのか、 理解に苦しむところだ。早く捕まりたいとでも思っているのだろうか。 「よっしゃ〜。行くぜ〜」 「えっ? どこへ?」 「容疑者の所だ。ハインリヒから任意同行するように言われている」 口調だけでなく、顔つきまで警察官らしくなった彼は、つかつかと野次馬の方へ足を進めていく。 この変貌ぶりは容疑者の行動と同じくらい不思議である。 「ジュリー、行くぞ」 『…はいはい』 地面に伏せて休憩していたジュリーは、体をプルプルと振って土を落とすと、のっそり動き始めた。 本来は身軽なペット用のミニブタのはずだが、今はサイのように緩慢な動きになっている。 いつになったらやる気が出てくれるんだか…。 オレの心配は他所に、ジュリーはブツブツと呟きながら、ヨハンの後を追っていく。 『…爆弾のスイッチよりも、この男のスイッチ捜したいわね…」




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