「怒りの鉄拳」 

  第1巻を読み終えた方はどうぞ 注意

  ライン


「エイッ」 「ヤー」 威勢の良い掛け声が、体育館にいくつも響き渡る。 ここは、フランス警察局からほど近くにある、市民体育館の中の武道場である。 今日は、警察局の武術スキルアップの為の訓練日ということで、多くの警察官が汗を流して稽古に 励んでいる。 その中に、一際目立つ人物がひとり。 組手の稽古をしている人達が多い中、無言で黙々と形の練習をしている。 その腰に巻かれた帯は黒帯。フランス警察局内でも5本の指に入る実力者である。 「やぁ、ミシェル。今日はまだ組手はやらないのか?」 「あら、ジャン、来てたの? 気づかなかったわ」 ミシェルは動きを止め、話しかけてきた男性に目をやった。 「余程、形に集中してたんだね。もし練習が一息ついてるなら、一緒にやってもらえないかな?」 ミシェルは胴着の裾をパンパンと手で叩いて整えた。 「いいわよ。そろそろ組手をやろうと思ってたの」 おお〜、と道場内に歓声が上がる。 「空手3段のミシェルと、2段のジャンの組手かぁ…」 「こりゃ、見ごたえあるな」 既に自分の練習に見切りをつけ、ギャラリーになることを決めた人達は、道場の隅に避難していく。 二人の周りには、自然に丸い空間ができあがった。 「今日は随分と熱心に形をやってたけど、何かあったのかい?」 「え? 別に何もないけど」 そうは答えたものの、ミシェルは内心動揺していた。 ―――熱心にやってたっていうより、考え事に没頭してたのよね。 はぁ、とミシェルは溜め息をついた。 ―――あの子、どうしてあんなに余裕があるんだろう? 17歳なのに、やけに落ち着いてて、自分のペースを持っていて…。その上、超が付くほど鈍感。 かえって自分の方がペースを狂わされている気がする。 元気の無いミシェルを見て、ギャラリーがヒソヒソと話し出す。 「もしかしたら、今回ばかりはジャンが勝つかもよ〜」 「体格差も結構あるしねぇ」 「ジャンはミシェルにイイトコみせときたいんだろ? いいチャンスじゃないか」 ギャラリーは口々に好き勝手なことを言い、ワイワイ騒ぎだした。




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