「国際交流」

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                  朝食を食べようとリビングに向かうと、既にジュリーがコーンフレークを頬張っているところ                   に出くわした。いつもは同じくらいの時刻に起きるのだが、珍しいこともあるものだ。                   「おはよう。今日は休みなのに、早起きだな」                   『おはよ〜。別に早起きじゃないわよ。これ食べたら寝るわ〜』                   「…おまえ、もしかして一晩中起きてたのか?」                   『そ。オールよ。オール』                              ジュリーは気だるそうにモゴモゴと口を動かした。きっと眠いのだろう。                   それならば、どうして朝食など食べているのかと思うところだが、ジュリーは食欲旺盛なブタ                   である。どんなに眠くとも、悲しいかな、睡眠欲よりも食欲が勝ってしまうのだ。                                           「食べてからすぐ寝ると牛になるぞ」                   一応、警告はしてみる。ブタに牛になると言って効果があるとは思えないが。                   『大丈夫。食後に少し運動してから寝るわ』                   「運動?」                   『そうよ。リビングからベッドまでウォーキングすれば、食後の運動になるでしょ』                   「…そんなの、たかが10mだぞ」                   オレは軽い眩暈を覚えた。普段はオレより賢いジュリーだが、眠気で多少、思考回路が異常                   をきたしているらしい。オレはそれ以上ツッコムのは止め、トーストとコーヒーの準備をする                   ことにした。                   それにしても、ジュリーは徹夜をしてまで何をしていたのだろう?                   昨日の晩、オレが寝る時には、確かパソコンの前にいたはずだ。                   さては…。                   「おまえ、一晩中ネットしてたんだろう?」                   『そーよ。中々区切りがつかなくって…』                   「何だよ。またゲームか?」                   オレはパソコンに殆んど触らないが、ジュリーはネットをフル活用している。ミニブタ用の                   プレミアムフードをネット販売で購入したり、珍しいキノコをコレクションしたりと忙しい。                   最近はゲームにハマっていて、特にマージャンは本場の中国人の集まるサイトで対戦をして                   いるらしい。マージャンをする時には「前八戒」という名前を使っているという。                   何でも、中国の小説「西遊記」の中に出てくる「猪八戒」の「猪」がブタを指す言葉で、                   「猪八戒」の「前」の部分=「猪(ブタ)」という意味らしい。オレにはさっぱりわからな                   いが…。                   『今日はゲームじゃないのよ〜。チャット』                   「なんじゃそりゃ…」                   『うーん…ネットの中での会話って感じかなぁ』                   「誰と会話するんだ?」                   『うーん…知ってる人もいれば、見ず知らずの人もいるけど…』                   「昨日は?」                   『自称、イタリア人の男。38歳』                   「誰だそりゃ…」                   『アタシもよくは知らないわ。たまたま昨日出会って話しただけ』                   「どうやってたまたま出会うんだ?」                                           オレにはネットの中のシステムがどうもよくわからない。                   『出会い系サイト』                   「………! ゴホゴホゴホッ…」                                           サラッと言いのけた相棒に対し、オレは激しくコーヒーでむせた。                   「オマエ、何やってるんだっ!!!」                   『いいじゃない。人生経験よ。どんなもんか試してみたかっただけ。あんまり面白くなかった                    からもういいわ』                   そういう問題じゃないだろう…。                   オレはガックリと頭を垂れた。                      『ランディー、トーストのバターに前髪がつきそうだけど? 頭上げたら?』                   誰のせいで、こんな姿勢になってると思うんだ…                   オレの前髪は、バターにどっぷり漬かっていた…。




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